経営理念とミッションの重要性
良い経営理念やミッションは相乗効果を生み、同じ志をもった仲間を採用するにおいても良い方向に作用します。
本記事では、経営理念の必要性と組織にもたらす効力について、詳細を説明しています。これから会社組織を編成したいと考えている方は、ぜひ記事内容をご確認ください。
目次
経営理念とは?会社の根底を成すもの
経営理念を簡単に言い表すと、経営者の哲学や信念に基づいて根本となる活動方針を言葉にしたものです。
経営理念について、以下2つのポイントにて紹介します。
経営者が持つ哲学の明文化
経営理念は、経営者が企業運営を行うにあたって、軸としている考え方を明文化したものです。企業によっては、社訓、社是、行動指針と呼ばれるケースもあります。
また、経理理念と社訓、社是をそれぞれに明示している会社もあり、取り扱いは様々です。
企業運営の過程で形作られてきた経営理念は企業の体をなすものであり、雇用されている従業員は原則として経営理念の理解に努める必要があります。
従業員に響く言葉に意味がある
自社の目標や、顧客満足、社員の幸せなど、さまざまな観点から自分の会社が何を第一に考えているのかを良く考え、言葉にして表すものが経営理念です。
したがって、ビジネス書や他の企業が掲げている経営理念を参考にしても意味がありません。
借り物の言葉では、従業員の心に響く経営理念を打ち立てることはできないでしょう。
かといって、奇抜な言葉を選ぶ必要もなく、心から自然と出てきた言葉を経営理念にまとめることが大切です。結果として他社と似通っていても本心からの想いであれば問題ありません。
経営理念はなぜ必要なのかを考察
渾身の経営理念を掲げたところでどの程度従業員に浸透するのか、もしかしたら経営理念はなくてもいいのでは?
と、考える経営者の方も多いかもしれません。経営理念は、企業を運営していく上で大切なものです。
なぜ大切なのか、という点について以下に説明しました。
迷った時の道標となる
経営理念がないと、その場で発せられる社長の言葉の一つひとつを経営理念として理解する必要があります。
社長とて人間ですから、先月の発言と今月の発言内容が異なることはあるでしょう。根本の軸はブレていないとしても、言葉の意味は受け取る人によって多様です。
発言を受ける従業員は、朝令暮改とも取れる内容に戸惑ってしまうかもしれません。そんな時に経営理念は、道標としての役割を果たします。
経営理念がなければ発言の真意が理解できず、会社への不信感は募るばかりです。
経営者としての成長も
経営理念は従業員の道標になるとともに、経営者にとってもブレない軸として存在し続けます。自分を顧みて、会社のことを真剣に考えるきっかけにもなるでしょう。
社員に対して嘘はつけない、経営理念に反する行動や言動は慎むべき、という反省は経営理念を掲げているからこそのものです。
経営理念は、経営者個人を成長させてくれる力も持っています
働きがいやモチベーション向上と経営理念の関係
従業員には前向きかつ積極的に業務に取り組んでほしい、とは多くの経営者が考えるところではないでしょうか。
軸がしっかりした経営理念は、働く従業員の気持ちまで前向きにしてくれる力があります。
経営理念がなぜモチベーションアップにつながるのか、以下の2点にて説明します。
満足要因と不満足要因のバランス
従業員が仕事に満足や不満を感じる原因は2つの要因のバランスにあると言われています。
満足度を挙げ、よい雰囲気の会社を作るには満足要因である動機づけが大切です。
従業員が自己実現を目指す際に、経営理念との共感があれば、不満要因とのバランサーとしての機能を果たしてくれるでしょう。
仮に昇給だけ行った場合、不満足要因の解消にはなりますが、根本的な不満の解消に至るのは難しいでしょう。主な不満足要因と満足要因は以下のとおりです。
- 不満足要因(衛生要因)経営方針
職場環境
対人関係
労働条件
給与待遇
福利厚生 - 満足要因(動機づけ要因)達成感
昇給
責任
成長
認められる
働く目的と承認欲求
人間は自己実現へ向かって絶えず成長すると言われています。自己実現には、基本的な生活を送るための衣食住が根底にありますが、人は現状が満たされると同時に、さらなる高みを目指そうとするものです。
先進国である日本では、基本的な生活の維持が比較的達成しやすいため、社員の目線は社会貢献や自己の成長へ向かっている点に注目します。
理想を抱いて入社してくる従業員の思いを実現させるには、共感できる経営理念や目標がとても大切です。最低限の労働環境や待遇を用意した上で、揺るぎない経営理念を掲げ、従業員のモチベーションのアップを図りましょう。
経営理念を持つ企業ともたない会社との差
経営理念を持つ重要性を紹介してきましたが、具体的に経営理念を掲げる企業とそうでない企業の間にはどのような差が生じるのでしょうか。
経営理念を掲げるメリットをもとに、持たない会社との差を考察しました。
経営理念が企業へもたらすメリット
経営理念は自社の存在意義や社員が働く時のモチベーションアップに効果的であることは前述の通りです。
その他に挙げられるメリットは、採用のしやすさと代替わりへの対応です。
求人募集にあたって、前面に打ち出せる経営理念の有無は他社との大きな差別化ができます。狙った人材へ向けて経営理念を共感できるメッセージとして発信できると、マッチングの可能性も高まるでしょう。
優秀な人材の確保が難しい昨今において、同じ意志をもつ仲間へピンポイントなメッセージを届けられる点は、大きなメリットです。
また、軸となる経営理念があれば、事業継承による従業員の離脱を防ぐことができます。経営者のもつ思想をまとめた経営理念を掲げることで、従業員へ想いは引き継がれ、安定した事業継続を実現します。
経営理念を疎かにしている企業
会社の軸となる経営理念はとても重要です。一方であえて経営理念を大々的に掲げない方針をとる企業もあります。
経営理念を作らない場合、どのようなデメリットが想定されるのでしょうか。考えられるデメリットを以下に紹介します。
- 明確な目標がなく、従業員のモチベーションが上がりにくい
- 従業員の行動に一貫性がなくなり、モンスター社員が発生しやすくなる
- 自社の企業風土に合わない人材を採用してしまう
- 従業員の不平不満が募りやすくなる
軸がないことによって、以下のようなマイナスの連鎖も想定されます。
- 共通認識のもとで仕事ができないため、業績が上がらない
- 業績アップがなければ給与など待遇面がよくならない
- 待遇が悪いと従業員は幸せになれない
- したがって、退職者が増える
お金のためだけに仕事をするのは、思いの外重労働です。その上、待遇面が悪くなればたちどころに従業員は去っていくでしょう。
経営理念・ビジョンの浸透状況(労働生産性の変化)
経営理念が浸透している企業と浸透していない企業の労働生産性の差は歴然
【参考文献】
中小企業庁 2022年度版中小企業白書
URL:https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2022/chusho/b2_2_3.html
経営理念を浸透させるには
経営者の思想や意志を反映させた経営理念を作り上げても、社内へ浸透しなければ意味がありません。
従業員に聞いても答えられないようであれば、経営理念は形骸化しているといっても良いでしょう。
経営理念を浸透させ、形骸化しないようにするための方法を以下に紹介します。
社長自ら従業員へ伝える場を設ける
基本的な方法であり、効果も高い方法です。社員全員が集まる会議の場所や社内報、イントラネットを使った発信など、事あるごとに経営理念を発信するようにしましょう。
繰り返し話をするとくどいようにも思えますが、想いをしっかりと伝えるには、繰り返すことが重要です。
クレドカードを従業員に携帯してもらう
経営理念をまとめたクレドカードを従業員に携帯してもらう、という方法もあります。普段の携帯を始めとして、会議の際は机上に置くなど、独自のルールを追加する方法もあります。
従業員へ従属を強いる感が強まるため、クレドカードの運用には注意が必要です。
経営理念に基づいた行動によって得られた事の報告
経営理念に基づいて行動した結果、どのような成果につながったのか、顧客満足度向上につながった事例などを報告する場を設ける方法も効果的です。
強制感が強くならないように、従業員の間から自然と発言が出るような環境つくりが大切です。
強制感が強くなると良い効果どころか、マイナスへと働いてしまいます。
人事評価へ組み入れる
数値では測れない定性的な人事評価に、経営理念に基づいた行動を組み入れる方法もあります。
この方法も、やり方によっては従属を強いる方法になってしまうため、慎重さが求められます。会社が従業員から愛されていることを前提条件としていなければ、評価査定の実施は従業員の反発を招いたり、モチベーションが低下したりなど、マイナスへ働きます。
企業ミッションとは
経営理念と重複するように見えますが、企業が掲げるミッションとは、企業が社会に存在する意義を表明し、その中で果たすべき役割をあらわします。
経営理念を広義の意味で捉えるとミッションと同義とするケースがありますが、あえて切り分けて掲げたほうがより伝わりやすくなるでしょう。
経営理念を行動指針と捉えると、ミッションはめざすべき大きな目標と言うこともできます。
良いミッションにある4つのポイント
ミッションは会社が見据える未来の姿です。よいミッションには明確な視点が存在します。
良いミッションにみられる4つのポイントを、以下に紹介します。
マーケットの広がりを意識できているか
マーケットの広がりとは、企業の長期的反映と社会課題の解決への視点です。
会社がもつ商品やサービスをもって、解決できる社会課題はないか?また、何を変えていきたいのか?という問いから発せられた良いミッションには、目先の利益のみにとらわれない中長期的な視点が盛り込まれています。
従業員の労働意欲と成長を助長している
優れたミッションは、従業員の労働意欲を底上げし、成長までも助長しています。
日々の生活のために働くことと、課せられたミッションの実現のために働くのとでは、仕事の質や継続性に生じる大きな差は歴然です。
モチベーション高く働くことで得られた自己実現は成功体験となり、さらなる高みを目指すための原動力にもなり得ます。
経営者もミッションに基づいて行動できる
良いミッションは、経営者の言動の上に存在しています。経営者の日々の発言や行動の礎となっているミッションを、経営者を含めた全従業員が同様に見ている状態です。
前出の経営理念の項でも述べましたが、揺るぎないミッションは、経営者が交代しても脈々と受け継がれ、企業の軸として存在し続けます。
判断の軸となりうる
企業は、世の中の動きに合った事業を生み出し、進化させていく必要があります。しかし、時として判断に迷い、事業が失敗に終わってしまうケースもあるでしょう。
取捨選択の判断に迷った時や、事業の失敗から立ち直る時にもミッションは心強い道標となります。
やるべきこと、果たすべき使命が明確であれば、どんな時でも行き先を見失うことはありません。
ミッションから得られる4つのメリット
ミッションの重要性は前述の通りですが、具体的に掲げたミッションからはどのようなメリットが得られるのでしょうか。
もたらされるメリットを以下4点、ピックアップしました。
経営の指針となり未来を描くことができる
社会課題の解決や人々の生活を豊かにするために、企業は常に安定的な事業継続を目指し、時として新しい事業を行う必要もあります。
思い描く未来を目指し、実現するためにミッションは欠かせません。この決断は自社ならではのものか、使命に沿っているか、実現したい未来に近づいているかなどという視点は、ミッションがあるからこそのものです。
具体的なミッションは、未来を思い描き、目標に向けて邁進できるメリットがあります。
商品開発やサービス提供の起点になる
社会から選ばれる商品、サービスを提供するには、社会課題とミッションの適合が大切です。
現実的な社会課題や貢献とミッションがかけ離れていると、いくら良いものを送り出しても選ばれることはないでしょう。
良いミッションを設定していれば、つねに起点として、新しい商品やサービスを世に送り出すことができます。
志を同じくする人を採用しやすい
経営理念の重複するポイントですが、ミッションがあるとより深い共感を感じる人材を仲間として採用しやすくなります。
エントリー数の減少や、ターゲットとする学生と出会えない、内定辞退率が多いなどの問題は、経営理念とミッションの共感が得にくい可能性があります。
無理にキャッチーなミッションを作る必要はありませんが、社会課題や目指すべき使命が社会背景とかけ離れていないか、具体性を伴っているかなど、確認したほうが良いでしょう。
投資家など対外的なアピールがしやすい
スタートアップ企業が投資家やベンチャーキャピタルから資金を募る場合は、未来への展望が鮮明で、かつ具体性を伴ったピッチが必要です。
経営理念やミッションなくしては、訴求力の高いピッチを行うことはできません。自社の存在意義を明らかにし、社会の中で何をなしとげたいのか、負うべき使命など、さまざまな想いをミッションへ込めたいところです。
まとめ
行動の指針となる経営理念と、会社が目指すべき目標と使命を明らかにしたミッションの両輪によって、ゆるぎない軸が完成します。
強い軸があればよい判断の基準となり、たとえ道を間違えたとしてもまた正しいルートへ戻ることができます。
従業員は、何のために働くのか?という難しい疑問が解消され、お金のためだけでなく、自己実現を目標に掲げることもできるようになります。
経営理念やミッションは企業の原動力となる大事なテーマですが、強制を伴うようでは逆効果になってしまいます。
自然発生的なモチベーションの高まりを生み出すような組織形成を心がけましょう。