戦略的な人材育成とは?人材戦略との違いやフレームワークを使った思考の手順を解説

企業や団体で働く個人の成長は、組織全体の成長や発展、将来性を左右する重要な要素です。
そのため組織における人材育成は、その時々の問題や課題の解決を目的に場当たり的に進めるのではなく、明確な方針や目的のもとで長期的かつ戦略的に進めていかなければなりません。
そこで今回は、全国に14,000社以上もの会員企業様を抱え、多様な中小企業の人材育成を支援してきた日創研が戦略的な人材育成とは何か、人材戦略との違いと一緒に解説していきます。
また併せて、戦略的人材育成について思考する手順や、その際に役立つ3つのフレームワーク、実行する上での注意点やポイントも紹介していきますので、ぜひ最後までご確認ください。
目次
「戦略的な人材育成」とは?
戦略的な人材育成とは、会社の経営戦略と人材育成の方針を連動させて、時間をかけて計画的に進めていく人材育成のことを言います。もう少し具体的に言うと、経営戦略の実現に必要な組織能力(コンピテンシー)を考え、その獲得に向けて人材育成を進めていくことです。
もともと人材育成には、会社の成長・発展に必要な知識やスキルを従業員に獲得してもらうために学習機会を提供すること、教育することという意味合いがあります。戦略的人材育成は、成長や成功イメージのうち特に「経営戦略の実現」に重きを置き、その達成に向けて人材育成を進めていくことだと言えるでしょう。
似た印象のある「人材戦略」との違いは?
人材育成の考え方・進め方を表す戦略的人材育成と似た言葉として、人材戦略があります。
人材戦略とは、企業が経営目標を達成するために立てる人事・人材関連の戦略全般のことです。「人事戦略」とも呼ばれるもので、人材育成だけに限らず採用や配置、組織設計、評価、定着率といったところまで含めたより大きな枠組みに関する戦略のことと定義されます。
戦略的人材育成は、人材戦略を構成する要素の一つであり、異なる意味を持つ言葉です。2つの言葉を混同してしまわないように、注意しましょう。
フレームワークを使った戦略的人材育成の思考方法
戦略的人材育成の概要がわかったら、次はフレームワークを使って戦略的に人材育成を考える手順について見ていきましょう。人材育成の戦略や計画を立てる際に役立つフレームワークはいくつかありますが、まずはシンプルな「目的→戦略→戦術」のフレームワークで人材育成の対象や内容、方法を考える手順について紹介していきます。
【戦略的人材育成のためのステップ1】目的を明確化する
人材育成は経営戦略を実現するための手段の一つであるため、目的がはっきりしていなければ詳細を決めることができません。そのため戦略的人材育成を思考するには、まず「人材育成を通してどのようなことを達成・実現したいのか」という目的を明確化する必要があるのです。
人材育成を行う目的は企業によってさまざまですが、戦略的人材育成における一般的な目的としては、大きく以下の2点が挙げられるでしょう。
- 組織の経営目標の達成に必要なスキル、知識を社員さん達に獲得してもらうこと
- 自社が抱える問題や課題を人材育成を通して解消し、経営戦略を実現すること
つまり、経営戦略で定義した将来的なビジョンや自社の理想的な成長イメージと現在の状況を比較し、これから獲得するべきもの・解消するべきことを洗い出していけば、人材育成の目的も明確になってくると考えられます。
具体的な方法としては、まず経営理念や経営戦略、将来的なビジョンをもとに自社が求める人物像(=人事理念)を明らかにします。その上で現状を分析し、自社に足りないスキルや知識の獲得と今抱えている問題や課題の解消を、人材育成の目的として設定すると良いでしょう。
なおこの段階では、後述する戦術に当たる人材育成の方法(研修やeラーニング等)については、考慮しなくて構いません。人材育成の効果を高めるためには、手法ではなく目的をベースに詳細を決めていく必要がありますから、まずは人材育成の目的の設定に集中してください。
【関連記事】企業の人材育成で起こりがちな課題とは?解決策や成功のポイントをまとめて紹介
【戦略的人材育成のためのステップ2】戦略を決定する
目的が明確になったら、その目的を果たすための戦略を考えていきます。この場合の戦略とは、先ほど設定した人材育成上の目的を果たすための基本的な方向性や考え方のことです。
なお人材育成上の戦略は、以下の2点を基準に考えていけば、少しずつ見えてくるでしょう。
- What:人材育成を通してどのような価値(スキルや知識)を、育成対象に届けるのか
- Who:経営戦略や目的の達成のため、どの階層の社員を育成対象とするのがベストか
例えば、人材育成の目的が「経営戦略にある5年後の海外進出を成功させるために必要な人材を確保すること」だった場合、戦略に当たるWhat・Whoの具体例としては、以下の一覧表に挙げたようなものが考えられます。自社の経営戦略、人材育成上の目的に対してどのような戦略を立てればいいのかわからない、イメージが湧かないという方は、ぜひ参考にご覧ください。
What(どのようなスキル・知識が必要か) |
|
---|---|
Who(誰に・どの層に人材育成を施すのか) |
|
【戦略的人材育成のためのステップ3】戦術を決定する
戦略が決まれば、大まかな学習内容と育成の方向性、育成対象者の候補まで具体化できたことになります。最後に、戦略に基づき目的を達成するための戦術について考えていきましょう。
この場合の戦術とは、人材育成のHow(どのように)に当たる部分です。以下のような選択肢の中から自社の状況や目的、育成対象者の階層や行動特性に合った育成手法を複数選び出し、組み合わせや使い分けの基準・方法まで考えていくと、具体的な戦術が見えてくるでしょう。
- OJT(On the Job Training)
- OFF-JT(Off the Job Training)
- eラーニング
- 自己啓発支援(SD)
- コーチング など
戦略的人材育成に役立つ!フレームワーク2選
ここからは、多くの中小企業の人材育成をサポートしてきた日創研の視点から、戦略的な人材育成を思考する際に役立つおすすめのフレームワークを2つ紹介していきます。自社の人材育成を成功させるために、基本となる「目的→戦略→戦術」以外のフレームワークも知っておきたいという場合は、ぜひこちらも併せてご確認ください。
【その1】7S(セブンエス)
7Sとは、計7つの経営資源を基準に組織を分析・調整することにより、それぞれの会社に合った経営戦略を構築し達成を目指すためのフレームワークです。具体的には、以下に挙げた3つのハード要素と4つのソフト要素について組織に理想的な状態と現状を比較し、ギャップが埋まるように調整していくことにより、適切な経営戦略の構築や達成、人材育成等に活用します。
経営資源のうち、3つのハード要素 |
|
---|---|
経営資源のうち、4つのソフト要素 |
|
なお、これら7つのSは相互に関係しているため、1つの要素だけを見直しても組織の改善・改革はうまくいきません。組織が自社に合う経営戦略を構築し、達成を目指すためには、7つの要素すべてに注意を払う必要があるとされています。
【その2】バランストスコアカード(BSC)
バランストスコアカード、またはバランススコアカードとは、財務・顧客・内部プロセス・学習と成長の4つの視点から、企業組織の業績や目標達成の進捗状況などを評価・測定したり、達成までの道筋を可視化するためのツールとして使われるフレームワークのことです。
人材育成を含む人材戦略では、4つの視点のうち特に「学習と成長」の視点について書き出していくことにより、経営戦略と現状のギャップを評価したり、経営戦略の実現に必要な人材育成方針、施策等を具体化する上で役立ちます。
【関連記事】プロが解説!人材育成に使えるフレームワーク9選|活用する際のポイントや注意点も
人材育成を戦略的に進めていく際の注意点
人材育成の成功だけでなく、経営戦略を実現するという意味でも有用な戦略的人材育成ですが、実施する上では注意点もあります。人材育成を戦略的に進め、成功させるための注意点について以下にまとめましたので、フレームワークと一緒に覚えておくようにしてください。
- 人材育成には長い時間がかかると理解し、短期的な成果を求めず継続的に取り組む
- 個別目標や成長速度に個人差があっても効果測定できるように、評価基準を設けておく
- 育成対象者と育成担当者の双方が成長実感を持てるように、定期的な面談等を通してコミュニケーションを取り、一緒に進捗管理する
企業組織における人材育成は、戦略的な思考で進めるべし
組織の成長と発展を大きな目的として人材育成を行う以上、戦略的な思考は欠かせません。
明確な成果を求めて人材育成に取り組むなら、本記事で紹介したフレームワークを活用して長期的かつ戦略的に社員さんの学習と成長をサポートして、人材育成を進めていきましょう。
なお日創研では、社長と幹部のリーダーシップ・フォロワーシップの傾向から貴社の組織タイプを検証した上で、部下との適切なコミュニケーションの取り方について学んでいただける「社長と幹部が学ぶリーダーシップ・フォロワーシップ1日セミナー」を開催しています。
人材育成や組織活性化の基本となるコミュニケーションの取り方、人材育成の方法やポイントについて学びたいという経営者の方、幹部社員の方は、ぜひ日創研の「社長と幹部が学ぶリーダーシップ・フォロワーシップ1日セミナー」の受講を検討の上、お気軽にご相談ください。

社長と幹部のリーダーシップ・フォロワーシップが組織の力となります。全員経営の組織をつくるため、リーダーシップ・フォロワーシップの発揮の仕方や磨き方を学びます。