人材育成と人材開発の違いとは?定義や手法の具体例・成功のためのポイントを解説
「人材育成」と「人材開発」は似たイメージのある言葉ですが、区別して使われるケースもあります。では、これらの2つの言葉には、具体的にどのような違いがあるのでしょうか。
そこで今回は、全国に14,000社以上もの会員企業様を抱え、中小企業の経営や人材育成を幅広く支援してきた日創研が、一般的な人材育成と人材開発の意味・定義の違いとともに、日創研における人材育成、人材開発に対する考え方についても紹介していきます。
これから自社で人材育成に注力していくにあたり、人材開発との違いや成功のポイントについて知っておきたいという方は、ぜひ参考にご覧ください。
「人材育成」と「人材開発」の一般的な意味の違い
まずは人材育成、人材開発という言葉の一般的な意味、定義について説明していきます。
一般的に人材開発とは、企業や団体等の組織のパフォーマンス、競争力等を向上させることを目的として、一人ひとりの従業員のスキル、知識、能力を高めていく取り組みのことです。
人材開発の大きな特徴としては、学習の機会やタイミング、内容について、それぞれの社員が持つ能力やスキル、キャリア志向といった個人の特性をもとに決定する点が挙げられます。
対して人材育成とは、企業としての経営目標等を達成するために必要なスキル・知識を自社のスタッフに習得してもらえるように教育することを言います。個人の特性よりも役職や階層を優先して育成対象者を設定するところ、また集合研修のような一律でのスキル獲得を目指した学習機会を提供するところが、人材育成の特徴だと言えるでしょう。
人材育成と人材開発、両者の実施の目的、また実施する時期や期間の傾向、主な対象者、ゴール設定の具体的な違いについては、以下の一覧表にまとめましたので併せてご確認ください。
人材育成と人材開発の目的・対象・ゴール・実施期間の違い一覧
人材育成 | 人材開発 | |
---|---|---|
実施の目的 | 日々の業務に当たる上で必要な技術、知識を身に着けること | 個々の社員が持つ能力やスキルの向上、強化、最大化 |
実施時期 | 入社、異動、昇格など、大きな環境や立場の変化があった時 | 時期の傾向は特にない |
主な対象者 | 新入社員、管理職等の階層や役職を基準に区切って設定 | 基本的には全スタッフが対象となる |
ゴール | 育成対象者の階層や役職ごとに、一律で設定する | 社員のスキルに合わせて、本人が個別に設定する |
期間の傾向 | 比較的に短期間で実施される | 通年など、比較的長期間にわたり実施される |
人材育成と人材開発を明確に区別するのは難しい
人材育成と人材開発は、どちらも企業にとって最も大切な経営資源である「人」を育てることを通して、会社を永続的に成長・発展できる組織に変えていくための取り組みの名称です。
そのため両者の意味を混同したり、人材教育という言葉も含めて同義語として使うことも珍しくありません。人事の専門家、または人材の採用や教育等を主な事業とする企業でもない限り、人材育成と人材開発の定義を明確に区別し、使い分けるのは難しいと言えるでしょう。
なお近年では、人材育成だけでなく人材開発への注目度、必要性が高まってきているとされますが、その背景には大きく2つの理由があります。
まず1つ目は、働く個人の仕事や職場への価値観が多様化したことで、従来型の一律的な教育だけでは社員のエンゲージメントやモチベーションを維持・向上するのが難しくなったこと。
そして2つ目は、社会と経済、技術が急速に変化・発展する時代になり、先行きを見通しにくくなったことが挙げられます。これにより、企業にはこれまで以上に柔軟かつ迅速な変化への対応が求められるようになったため、適応力の高い組織づくりの一環として、さまざまなスキルを持つ人材の開発・育成が重視されるようになったのです。
この点も、人材育成と人材開発の一般的な意味の違いと併せて覚えておくと良いでしょう。
日創研における人材育成・人材開発への考え方
一般的には、目的や対象者等の違いによって区別される人材育成と人材開発ですが、日創研においては、2つの言葉の定義を明確に分けることはしていません。
「人と企業の成功づくり」を標榜し、多様な業界・職種の中小企業の人材育成をサポートしてきた日創研では、自社のお客様に人材開発の要素も含めた人材育成をおすすめしてきました。
なお、日創研が考える人材開発の要素も含めた人材育成の目的・実施時期・対象者・ゴール・実施期間は、それぞれ以下の通りです。このような考え方があることも、一般的な人材育成・人材開発の定義と併せて、ぜひ知っておいてくださいね。
実施の目的 |
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実施時期 |
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主な対象者 |
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ゴール |
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期間の傾向 |
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人材育成・人材開発に使える手法の具体例
ここからは人材育成、並びに人材開発に用いられることが多い手法のうち、特に代表的なものを6つ紹介していきます。人材育成と人材開発について具体的にイメージするための参考として、ご確認ください。
OJT(On the Job Training)
OJTとは、別名「職場内訓練」とも呼ばれる手法のことです。具体的には、まず先輩社員が実務について説明・実践した後、後輩にも挑戦してもらいます。その際のフィードバックや成功体験の積み重ねにより、段階的に業務上の知識・スキルを身に着けてもらうというものです。
職務の延長として実施でき、取り入れやすいところが最大のメリットですが、育成担当者のスキルレベルによって成果が左右されるため、標準化が難しいというデメリットもあります。
OFF-JT(Off the Job Training)
職場内訓練の別名があるOJTに対して、「職場外訓練」とも呼ばれているのがOFF-JTです。
OFF-JTとは、通常業務とは別に時間や場所を確保し、社内または社外で開催されるセミナーや研修、講習会、見学会等に参加して学習してもらう手法のこと。現場から離れて集中的に学べるので体系的な知識のインプットに適した手法ですが、その分、他の社員に時間的・精神的な負担をかけることになるため、あまり人的余裕のない企業では実施が困難なこともあります。
【関連記事】ビジネス用語「OJT」の意味とは?OFF-JTとの違いと一緒に日創研が解説!
eラーニング
アプリ等の学習ツールを使い、インターネット上の文章や動画などのコンテンツでオンライン学習してもらう手法を、eラーニングと言います。ネット環境さえあれば、いつでもどこでも学びの機会を提供できる他、教育の質を均一化しやすいというメリットもあるため、特に人的・時間的負担を軽減しながら、人材育成や人材開発に取り組みたいという企業におすすめです。
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コーチング型朝礼
コーチングとは、質問や対話を繰り返すことにより、育成対象者の学びと気づき、成長を促す育成手法のこと。そしてコーチング型朝礼とは、経営陣や管理職が一方的に話す場になりがちな朝礼にコーチング型の質問、コミュニケーションを導入することにより、毎朝の朝礼を学びの時間に変える手法のことです。
毎朝手軽に、短時間から取り入れることができるコーチング型朝礼は、他の手法と比較しても費用的・時間的負担が少ない方法だと言えるでしょう。
コーチング型朝礼に利用できる「13の徳目」の内容や人材育成におけるメリットとは?
自己啓発(SD:Self Development)
社員が自身のキャリアアップ、スキルアップのために自主的に学習することを自己啓発(SD)、また社員の自己啓発を時間的・費用的に企業が支援することを自己啓発支援と言います。
社員にとっては自分で学習内容を選べるためモチベーションを維持しやすく、企業にとっては業務時間を圧迫しにくい等のメリットがありますが、知識の定着率や学習の成果が社員の意欲によって大きく変わってくるなどのデメリットもあるため、注意が必要です。
個別目標実現シート(ビジョンシート)の活用
日創研では、人材育成や人材開発をする際の手法の一つとして「個別目標実現シート(ビジョンシート)」の活用を推進しています。個別目標実現シートとは、以下のようなことを目的として社員さんに自らの強み・弱みの振り返りや将来的なビジョン等について言語化し、書き出してもらうオリジナルのツールです。
- 組織全体の目標に基づいた個別目標を、社員さん本人に明確化してもらう
- 一人ひとりの強みを組織目標、個別目標の達成に生かす方法を具体化する
- 目標の達成に向けて、上司や同僚から的確な支援を受けられるようにする
人材育成や人材開発を成功させるには、達成を目指すべき目標やビジョンを明確化させておく必要があります。実際に教育施策を策定・実行する段階に入ってから自社の方向性を見失ってしまうことがないように、このようなシートを使った手法の導入も検討すると良いでしょう。
人材育成・人材開発を成功させるためのポイント
手法の次は、人材育成・人材開発を進める上で知っておきたい成功のポイントについて、3つに絞って紹介していきます。こちらも、具体的な施策を実行する前にしっかりと確認しておきましょう。
【ポイント1】人事理念と目標を明確にした上で進める
人材育成や人材開発を成功させるには、自社が人を育てることを通して達成したい目標や会社が求める人物像(=人事理念)について、明確に設定した上で進めていく必要があります。
これから人材育成・人材開発に注力するなら、まず自社が現状抱えている課題の把握を行い、そこから人事理念と達成を目指すべき目標を具体化していけば良いと覚えておきましょう。
【ポイント2】組織と個人の目標の方向性を一致させる
人材育成と人材開発に共通する目的として、一人ひとりの社員を成長させることにより、組織全体の成長と発展を促すというものがあります。そのため、人材育成や人材開発の際に社員が設定する個別目標は、組織全体としての目標と概ね方針が一致していなければなりません。
また中小企業においては、個人の成長や目標の達成が、そのまま組織全体の課題解決や発展につながるサイクルをつくり出すことも大切になってきます。社員さんに個別目標を設定してもらう時は、自身が学び能力を向上させることの意味や重要性を実感し、内発的動機付けを高めてもらえるように、以下のような点についてもしっかりと伝えるようにしましょう。
- 自身が企業組織で果たす役割の大きさ、働く意味
- 組織で働くことにより、社会に与える影響について
- 組織や社会における、自身が成長することの重要性
【ポイント3】固定概念に捉われずに学習方法を検討する
人材育成や人材開発に役立つ学習方法、育成手法には、先述した6種類以外にもたくさんの種類があります。自社の現状や課題に合わせて複数の手法を組み合わせ、状況に応じて柔軟に使い分けながら人材育成・人材開発を進めていくことも、成功のコツだと理解しておきましょう。
人材育成と人材開発は、どちらも企業の成長に不可欠な要素
個人の能力や成長志向といった切り口から人材を育てていく人材開発と、企業が必要としている知識やスキルについて階層単位で学ぶ人材育成は、似ているようで複数の点において異なる考え方です。しかし同時に、働く個人を教育し成長を促すことによって組織全体の発展を目指すという大きな目的は共通しているため、どちらも企業にとって不可欠な要素だと言えます。
組織で働く個人の成長と学習の促進により、自社を永続的に発展できる企業にしていきたいと考えているなら、人材育成と人材開発の両方の視点を持って取り組む必要があると覚えておきましょう。
なお、もしも社員本人が学ぶことの重要性や意義について十分に理解できておらず、個別目標の設定がうまくいかないようであれば、一人の人材として自身が担う役割や影響力について、認識を改めてもらった方がいいかもしれません。
日創研では、社員さんが持つ強みや弱み、能力、課題、スキルや思考パターンの他、自身の言動が周囲に与える影響への気づきを促すためのセミナーとして「SA(セルフ・アウェアネス)自己成長コース」を開催しています。
自社において、人材開発の要素も含めた人材育成を行っていきたい、そのために社員にも自己認識をアップデートしてほしいとお考えの経営者の方は、ぜひ日創研の「SA自己成長コース」の受講をご検討の上、お気軽にご相談ください。