人材育成方針とは?企業組織における重要性や決め方・施策を実行する上での注意点も解説
企業組織が成長と発展を続けるためには、自社で働いてくれる従業員に対し、中長期的に人材育成を行う必要があります。そして、日々の業務を回すための場当たり的な教育ではなく、継続的かつ戦略的に人材育成を進めていくには、初期段階での方針決定が欠かせません。
そこで今回は、14,000社以上もの会員企業様を抱え、さまざまな中小企業様の人材育成をサポートしてきた日創研が、人材育成方針とは何か、その重要性や決め方について解説します。
また併せて、人材育成方針を決定する上での注意点や方針に沿って人材育成を進めていくためのポイントも紹介していきますので、自社が人材育成を行う上で目指すべき方向性や方針の決め方がわからず悩んでいるという経営者の方は、ぜひ参考にご覧ください。
目次
そもそも「人材育成方針」とは?
人材育成方針とは、会社や団体が組織としてどのような能力や考え方を持った人材を育てたいのか、また具体的にどうやって育てていくのかといったことについて明確に定義し、社内外に示すためのものです。
自社の社員を、社業を通じて社会貢献できる人材へと育てていこうとする中で目指すべき方向性や目的を見失わないようにするため、また求める人材像のもと、計画的に教育プランを立てて人材育成を進めていくための指針のようなものと言えるでしょう。
階層や社歴に合わせ、個人の人材育成方針を決めることも大切
人材育成方針は、企業全体としてだけでなく、一人ひとりの社員の階層や社歴、成長度合い、求められる責任や役割、スキル、知識に合わせて個別に設定することも必要になります。
まず、企業組織としての人材育成方針をはっきりと示し、自身に求められる役割や成長の道筋を見える化した上で、学習やキャリアアップの方向性、目的等の取り組みについて育成対象者である本人が決められるようにするとよいでしょう。
なお日創研では、企業が掲げる人材育成方針を個人に落とし込み、自らが学ぶ上での方針や目的、目標の達成状況等を把握するためのツールとして「ビジョンシート」を導入しています。
ビジョンシートとは、以下のような項目について育成対象者である社員さん自身が書き出し、上司やメンターとの個人面談等で活用することにより、学習の方針や目標の確認、成果の振り返り等を行うためのシートのことです。
- 自身の5~10年後のビジョン
- 人材としての自身の強み
- 5年後以降のビジョン達成に向けた1年以内、または3年後の具体的な目標
- 昨年度の良かったところ
- 昨年度の反省すべきところ
- 今年度、自身の強みをどう強化するか
- 今年度、昨年度の反省点をどう改善するか
- 4~7の内容と会社の方針に基づいた単年度の個人方針
- 単年度の個人方針の中から、自分育成のために特に意識すべき強化ポイントはどれか
- 単年度の個人方針、今年度の改善点や強化点について、毎月振り返りを行う など
企業が掲げる人材育成方針に基づき、自身のキャリアアッププランや学習目標等について言語化するビジョンシートの作成は、組織としての方針を個々のスタッフに理解してもらう上で役立つ他、学習への目的意識やモチベーションを高めてもらうという意味でも効果的と言えるでしょう。
企業が人材育成方針を定めることの重要性やメリット
人材育成方針とは何かを理解できたところで、次は、企業が人材育成を行う上で方針を定めることの重要性やメリットについて、確認していきましょう。
人材育成の成功、成果を実感できるようになるには、年単位の時間がかかります。そのため、方針や目的が明確でない状態で走り出してしまうと、企業側が提供する教育機会・内容に一貫性や根拠が見えなくなり、育成対象者である現場のスタッフに混乱が生じる恐れがあります。
また、人材育成を主導する立場である社長や経営幹部の側も自社に適した研修内容や学習の方法がわからなくなるため、結局、人材育成が行き詰まってしまうという事態になり兼ねません。
人材育成のための施策を実践する前に、しっかりと方針を固めておけば、人材の教育はもちろん、人事評価制度の構築・見直しを含めた人事施策全体に一貫性が出る他、各施策を連携させスムーズに進められるようになります。そして、人材育成の施策と人事評価制度につながりが見えるようになると、育成対象者である社員も会社のビジョンやミッション、自分や上司、同僚、部下が学習する意味について、理解しやすくなると考えられるでしょう。
また自身が学習する意味や根拠を理解できれば、仕事や学習へのモチベーションが上がり、学んだ知識や技術が定着・向上しやすくなるといった効果も期待できるようになります。
以上の理由から、中長期的な視点で戦略的に人材育成を進めていくためには、人材育成方針の策定が非常に重要であり、不可欠であると言えるでしょう。
人材育成方針の策定は自社の採用活動でも役立つ!
その会社が目指す組織像や求める人材像をはじめ、自社の社員を求める人材像へ近づけていくための具体的な施策や人事制度が示されている人材育成方針は、新卒・中途入社の新入社員をリクルートする場面でも役立ちます。
具体的には、入社前に人材育成方針をチェックしてもらうことにより、入社後に仕事内容や評価制度、キャリアプランの不一致で退職する方の数を減らすことができるでしょう。人材育成方針を策定することには、既存の社員の成長を促すこと以外のメリットや活用方法があることも、覚えておいてくださいね。
自社の人材育成方針を決定するための4つのステップ
ここからは、自社の経営理念や現状に合った人材育成方針を決めるための基本的なステップについて、4つの段階に分けて紹介していきます。人材育成に注力するために方針を定めたいと考えているものの、決め方がわからず困っているという経営者の方は、ぜひ参考にご覧ください。
ステップ①自社の経営理念と経営ビジョンを確認する
まずはじめに、企業組織としての活動の基本方針となる経営理念と、将来的な経営ビジョン(企業としてどうなっていきたいか、どのように社会に貢献したいか)、またビジョンの達成を通して果たしたいミッションは何か、考えてみましょう。
具体的な手順としては、経営理念から経営ビジョン、企業組織としてのミッションを導き出していくのがおすすめです。
ステップ②人事理念と求める人物像を明確にする
次に、ステップ①で確認した経営理念と経営ビジョン、ミッションをもとに、自社がそれらを達成するためにはどのような社員が必要かをイメージして、求める人物像を明確にします。
そして、求める人物像をベースに、自社の社員に身に着けてほしいスキルは何か、自社が評価すべき資質や行動がどのようなものか等を考え、自社における人事理念を構築してください。
ステップ③人事理念をベースに人材育成方針を決定する
人事理念が定まり、自社が求める人物像や、既存の社員を理想的な人材に近づけていくために必要な人事評価制度、キャリアプラン、学習の内容・方法等が見えてきたら、人材育成方針を決定しましょう。
なお、自社に合った人材育成方針を決定するには、人事理念とその基礎である経営理念、経営ビジョン、そして役職や社歴ごとの行動特性を落とし込んだ内容にすることが大切です。具体的には、ここまでに導き出してきた人事理念と大まかな階層・社歴ごとの行動特性をもとに、以下の3点を意識しながら方針を明確化していくと良いでしょう。
- 自社が育てたい、評価する人材(=求める人物像)がどのような人物か定義する
- 求める人材に獲得してほしい知識、経験、スキル、資格などを具体的に挙げる
- 既存の社員を求める人物像へ育て上げるために必要な知識、経験、スキル、資格などを獲得してもらうための学習機会、自社の現状に合う学習方法等について検討する
ステップ④方針をもとに具体的な人材育成施策を考える
方針が決まったら、その方針のもとでどのような内容・手法で学習機会の提供をしていくのか、以下のような選択肢の中から具体的な教育プランを考えていきます。現状、自社が人材育成にどのくらいの時間や予算を割くことができるのか、どのくらいの学習機会を提供したいと考えているか等の条件に合わせて、自社の社員に適した施策を検討してみてください。
OJT (On the Job Training) |
職場内訓練のこと。職場での実務を通して、日々の業務に必要な知識や経験、専門性の高い技術を身に着けさせるための育成手法。 |
---|---|
OFF-JT (Off the Job Training) |
業務とは別に時間や場所を確保し、学習機会を提供する育成手法のこと。職場外訓練とも呼ばれる。 具体例としては社内研修の他、社外で開催される研修や講習会、講演会、見学会などが挙げられる。 |
コーチング型朝礼 | 始業前の朝礼を、一方的な挨拶やスピーチ等を行う場からコーチング型(質問型)の朝礼に変えることにより、学習機会とする手法。 特に、人材育成にまとまった時間を確保するのが難しいという中小企業様におすすめ。 |
eラーニング | 人材育成のためにインターネット上にあらかじめ用意されたコンテンツを視聴、または活用することにより、人材育成を行う手法。 ネット環境さえあれば、いつでもどこからでも、スキマ時間で学習できるのが特徴。 |
OJT・OFF-JT機能を一つにまとめたジョブ・ラーニングアプリ「Growth College」とは?
人材育成方針を策定・実行する上でのポイントと注意点
ここからは、多様な業界・企業の人材育成を支援してきた実績を持つ日創研が考える人材育成方針を策定する際のポイント、進めていく上での注意点について、順に紹介していきます。
全社活動としてトップダウンで浸透させることが大切
人材育成方針の策定や、新しい方針のもとで教育体制や人事制度を改革する際には、社内から反発が起こることもあるでしょう。しかし人材育成は、組織全体の永続的な成長と発展に欠かせない要素であるため、一部の部署や社員だけではなく、全社活動として進めていかなければなりません。
人材育成方針を決定したら、強い信念を持ってトップダウンで組織全体に浸透させ、新しい体制づくりを進めていく必要があると覚えておきましょう。
人材育成方針は階層別・体系的に考えるべし
日創研では、組織の階層を社長・経営幹部・現場の社員の3つに分けて考え、各階層の社員が自身に求められる役割を自覚した上で高いパフォーマンスを発揮する「三位一体の経営」ができる状態を目指して人材育成することをおすすめしております。
そして三位一体の経営を実現するには、社長・幹部・社員の階層別に、それぞれの行動特性に合わせた内容とレベルで可能思考、ビジネス、コミュニケーションの各分野について過不足なく学習できるように、社内の制度や環境を整えていく必要があるのです。人材育成方針を決定する際は、階層ごとの行動特性や求められる役割に配慮することも忘れないでくださいね。
日創研が目指す「三位一体の経営」実現するための階層別教育カリキュラムとは?
方針と施策の実施は中長期的かつ戦略的に
先述した通り、人材育成による個人と企業組織の成長を実感できるようになるには、数年単位の時間が必要です。そのため、人材育成では短期的な成果を求めず、5〜10年先を見据えた中長期的な視点を持って全体の方針や具体的な施策を決定しなければなりません。
数ある経営資源の中でも、人材は、最も重要なものの一つです。経営者をはじめ、企業の社員全員が学習とアップデートを継続していけるように、戦略的な視点で方針を定めましょう。
時代や状況の変化に合わせて方針を見直すべし
人材育成の方針や教育プランは、一度定めて終わりではありません。社会情勢や経営状況、また社員さんの人数やスキル、希望する働き方等に大きな変化があった場合は、その時の状況に合わせて柔軟に更新していく必要があるでしょう。
なお、自社の人材育成方針が現状や時代に合っているかどうかを確認し、方針を見直したいという時は、状況整理や課題発見のためにフレームワークを活用するのもおすすめです。
以下に、人材育成のための目標設定や自社が抱える課題と解決策の発見、現状把握、育成施策による効果測定等に役立つ9つのフレームワークを紹介していますので、興味のある方は、ぜひこちらも併せてご確認ください。
プロが解説!人材育成に使えるフレームワーク9選|活用する際のポイントや注意点も
定期的に面談を行い、進捗管理や修正も行う
企業組織全体、また個人の人材育成方針に沿って学習ができているか、目標が予定通りのペースで達成できているかについては、定期的に上司と育成対象者が1on1で面談を行い、進捗確認と方針を修正・改善するための振り返りを行わなければなりません。
人材育成方針の策定時、特に、具体的な育成施策を検討する際には、方針と施策の実行による効果測定、改善を行うための仕組みづくりも、必ず組み込むようにしてください。
人材育成方針は、組織と働く個人の双方のために必要不可欠
きちんと自社における軸を定めた上で人材育成を行わなければ、施策のほとんどが場当たり的な対応となって施策に一貫性や根拠を持たせることができなくなり、組織全体として成長することも叶わなくなってしまいます。人材育成を受ける現場の社員さんを混乱させないために、また企業組織として目指すべき方向へ確実に進んでいくためにも、人材育成方針の策定は不可欠だと言えるでしょう。
ただ、記事中で紹介した手順で方針を決めようとしてもうまくいかないという場合は、自社にいま必要な人材やスキル等について、まだ具体的にイメージできていないのかもしれません。
そのような場合は、チームや企業等の組織単位でPDCAサイクルを回し、課題の解決や数値目標を達成するためのマネジメント能力の向上、またマネジメントの一環である人材育成の方針や目標の決め方等を具体的に学べる日創研の「マネジメント養成6か月コース」のセミナー受講、活用がおすすめです。
自社の人材育成や方針の策定を成功させるために学びの機会を得たいとお考えの経営者の方や、経営幹部の学びを通して組織全体をステップアップさせたいという企業様は、ぜひ日創研の「マネジメント養成6か月コース」の受講をご検討の上、お気軽にご相談ください。