人材育成で大切なこととは? 企業組織と個人が共に成功するためのポイントや計画方法を解説
企業が組織として成長・発展を続けていくためには、そこで働く個人の成長が不可欠です。
そのため、人材育成に注力したいと考える企業は多いですが、具体的にどのような考え方や手順をもとに取り組むべきか分からず、困っているという経営者様もいらっしゃるでしょう。
そこで今回は「共に学び 共に栄える」という経営理念のもと、中小企業の人材育成における課題解決のお手伝いをしてきた日創研が、人材育成をする上で大切なことを解説していきます。
また併せて、具体的な人材育成計画の立て方や活用可能なフレームワークの例なども紹介していきますので、自社の人材育成についてお悩みの経営者様は、ぜひ参考にご覧ください。
目次
企業における「人材育成」とは? 日創研での定義
人材育成とは、組織全体の成長・発展に貢献できるように、一人ひとりの従業員を育てていくことです。企業によっては、「人材教育」や「人材開発」などと呼ばれることもあります。
もう少し具体的に表現すると、企業や団体等の組織が「自社のスタッフを、社業を通してお客様や社会に貢献できる人材にすること(=企業が求める人材像に近づけていくこと)」を目的に、組織の一員として働く上での考え方、業務上必要な技術、コミュニケーションスキル等を学ぶ機会を積極的に提供したり、そのための体制を整えていくことと定義できるでしょう。
なお日創研では、物事を肯定的に解釈し、ピンチをチャンスと捉えて行動するための基本的な考え方である「可能思考能力」と、企業の成長・発展に貢献できる経営感覚の両方を持つ人材へ既存の社員さんを育てていくことこそ、企業における人材育成だと定義しております。
企業組織で働く人の仕事・課題への価値観を変える「可能思考セミナー」について
企業において人材育成が非常に重要である理由
企業という組織を活性化させ、成長を続けていくためには、目の前の問題や悩みを乗り越え成果を挙げることができる人材を育てる必要があります。ただ社長・管理職・現場の社員が、個々に職能獲得や業績向上に励んだとしても、組織全体としての成長達成は難しいでしょう。
数ある経営資源の中で、人材ほど重要なものはありません。一人ひとりの社員が会社の経営理念や目指すべき方向性、また自身の立場に求められていることを自覚して業務に取り組めるようになれば、自社という組織全体と個々の社員の能力双方の活性化が期待できるようになるのです。
プロが直伝!企業組織が人材育成を行う上で大切なこと3つ
ここからは、全国で14,000社以上もの会員企業様を抱え、中小企業様向けの研修や教材、教育プログラムを提供してきた日創研が考える人材育成を行う上で大切なことについて、3つのポイントに絞って紹介していきます。
人材育成で大切なこと①必ず全社活動として実施する
人材育成がうまくいかない、またはできていないという企業の多くは、業務の現場や人事制度において以下のような問題を抱えていることが多いです。
- 現場の社員、管理職とも日々の業務で多忙なため、人材育成にかけられる時間がない
- 組織が求める人材像が明確になっておらず、業務を回すための場当たり的な人材教育のみ行っている
- 人事部や管理職、企業全体において人材育成に関する知識や能力、意識が不足している
- 役職・部門による仕事の担当範囲が明確に定められておらず、個人の能力や経験をもとに仕事が割り振られている
- 求める人材像や人材育成の目的が明確でないため、自社の問題や課題を認識できない
- 育成対象者となる現場の社員と管理職が、人材育成の重要性について理解できていない
- 人材育成を担う経営者、上司、先輩の指導力により、教育の質が大きく変わってしまう
- 教育機会が突発的、スポット、部分的で一貫性や根拠が見えにくく、継続が難しい
- 社内に人材育成を積極的に行う雰囲気や体制がないため、社員が学習に集中できる環境が整っていない など
予算や人員等の関係から、これまであまり人材育成に注力してこなかったという企業の場合、新しい教育体制や人事制度を構築する際には、社内から反発が起こることもあるでしょう。
しかし、先述したように社長だけ、一部の社員や部署の人材だけの教育に注力したところで、組織全体としての成長は見込めません。人材育成を通して企業全体の成長を促進するには、経営者が強い信念を持ってトップダウンで体制づくりを始めて、全社活動として人材育成に取り組んでいく必要があると理解しましょう。
人材育成で大切なこと②長期的・戦略的な視点を持って取り組む
人材育成による成果、効果は、数か月程度の短期間で現れるものではありません。また経営環境や顧客ニーズの変化に対応できる組織として成長を続けるためには、企業も人も現状に満足することなく、継続的に学んで、知識や常識を随時アップデートさせていく必要があります。
そして、組織全体が学習を続けられる環境を整えるには、経営理念やビジョンに基づいた長期的・戦略的な視点から人材育成の方針や目的、目標を明確に定めておかなければばりません。
また、策定した人材育成プランを実行した後の評価や振り返り、改善を行うための仕組みづくりまで、計画の初期段階からきちんと設定しておくことも大切になってきます。
人材育成で大切なこと③教育は階層別、かつ体系的に行う
日創研では、社長・幹部・社員のそれぞれが能力を発揮して役割を果たし、三者のバランスが取れた三位一体の経営ができる状態を目指すことが、企業にとって理想的だと考えています。
「三位一体の経営」を構成する要素
社長に求められる「社長力」 | 【主な役割】 ・5~10年後の中長期を見て意思決定する ・会社のあり方、行き先を決める 【求められる能力】 |
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経営幹部に求められる「管理力」 | 【主な役割】 ・1~3年後の短期を見て意思決定する ・会社方針を実行できるよう進める 【求められる能力】 |
現場の社員に求められる「現場力」 | 【主な役割】 ・毎月、年間目標をきちんと達成する ・市場、お客様のニーズや変化をつかむ 【求められる能力】 |
三位一体のバランスが保たれている組織とは、トップの方針と現場の実態が連携していて、管理職が社長と社員の架け橋として機能した状態のこと。それを可能にするには、社長・幹部・社員の階層別に、求められる人材像や行動特性に合わせた内容とレベルで可能思考、ビジネス、コミュニケーションの各分野について、体系的に過不足なく学ぶことが重要になります。
人材育成の計画を立てる際には、階層別かつ体系的な教育を行うことを前提として、部署や社歴、役職ごとに教育内容や達成目標を設定する必要があると覚えておきましょう。
【社員の階層別】人材育成において大切なことの違い
求められる役割や能力が異なる以上、人材育成において大切なことも、階層別に異なります。そこで以下からは、社長・管理職・現場の社員それぞれが役割を果たすために獲得すべきとされる3つのスキル、またそのバランスの違いについて、理解していきましょう。
日創研では、企業が組織として成長していくためには、一人ひとりのスタッフに以下3つのスキルを獲得させる必要があると考えています。
コンセプチュアルスキル
コンセプチュアルスキルとは、戦略的思考能力のことです。具体的には、長期的視野と大局的な視点を持ち、外部環境の分析・予測と自社や部門の現状分析を行った上で、経営目標を設定し、戦略・戦術を考えて計画を立てる能力のことを指します。
ヒューマンスキル
ヒューマンスキルとは、対人関係能力のことです。上司・同僚・部下等の実務関係者と良好な人間関係を築いたり、社内や部門間でお互いに協力する風土を作るのに不可欠な能力であり、組織の中で働くために最も重要な基本スキルだと言えます。
テクニカルスキル
テクニカルスキルとは、専門性の高い技能のことです。具体的には、特定の業務を遂行するために必要な専門知識、技術、また業務に使用する設備、器具等を操作するスキルを言います。
このうち、会社のあり方やビジョンを決定する役割のある社長の場合は、コンセプチュアルスキルをメインに、ヒューマンスキル・テクニカルスキルもバランスよく学ぶことが求められるでしょう。
管理職においては、会社の決定を実行するための計画実行力や、相手の感情を汲み取れる共感のスキル、また共感した上でこちらの意図を正しく、わかりやすく伝えるスキルも求められるため、コンセプチュアルスキル・ヒューマンスキル・テクニカルスキルのすべてを同じくらい重要視する必要があります。
対して現場の社員は、お客様満足度の向上や目標達成に役立つテクニカルスキル、そしてチームとして役割を果たすためのヒューマンスキルに重きを置き、習得を目指すのが望ましいでしょう。
人材育成計画の立て方は? 基本の5ステップ
企業が人材育成を行う上で大切なことがわかったところで、ここからは、自社の状況や問題、課題に合った人材育成計画を立てる手順について、5つのステップに分けて紹介していきます。
ステップ①経営理念に沿った「求める人物像」の明確化
まずは、会社としての経営理念や将来的なビジョンをもとに、求める人物像を明確化します。
具体的な手順としては、経営理念から経営ビジョンを導き出し、そこから企業として求める人物像、社員に身に着けてほしいスキル(=人事理念)を明らかにしていくと良いでしょう。
自社における人事理念が見えてきたら、次はそれらを人材育成計画に落とし込んでいきます。
企業にとって必要なスキルを既存のスタッフに獲得させるための基本的な教育方針、また求める人物像に歩んでほしいキャリアプランについて、この段階でひと通り考えてみてください。
ステップ②役職別・部門別に現状の洗い出し
おおよその人材育成方針、理想的なキャリアプランが見えてきたら、次は現状を把握します。
今現在、役職や部門別にどのような行動特性が見られるのか、それぞれの社員さんが持っている知識、経験、スキル、資格の種類、またそのばらつきの程度などを洗い出してみましょう。
ステップ③課題の把握、必要な対策・強化策を検討
現状を洗い出してみると、自社が組織として求める人物像と既存スタッフのスキル、行動特性等にどのくらい開きがあるのかや、解決を目指すべき課題等が具体的に見えてきたはずです。
このうち、特に早急に対処するべき問題に関する課題を重点課題と位置づけ、解決するために必要な教育機会、人事制度の構築等も、人材育成計画に組み込んでいきましょう。
ステップ④具体的な教育プランの作成
人材育成計画の策定に必要な情報が揃ったら、自社の経営理念・人事理念に沿った人材育成を行うための教育プランを作成していきます。以下の表に、人材育成の際に用いられることが多い手法を社員の階層別にまとめましたので、具体的な施策を決める際の参考にご覧ください。
【階層別】人材育成の際に活用できる手法の具体例
新入社員から若手、中堅社員向けの手法 | ・OJT ・OFF-JT ・eラーニング等の社員向け研修 ・朝礼 ・ジョブローテーション制度 ・社内勉強会 ・自己啓発支援 ・目標管理制度 ・メンター制度 ・1on1 |
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管理職、または経営幹部向けの手法 | ・OFF-JT ・eラーニング等の社員向け研修 ・朝礼 ・ジョブローテーション制度 ・人事評価研修 ・コーチング |
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ステップ⑤実施、振り返り、フィードバック
ステップ④で自社の人材育成計画が定まったら、時間をかけて実践してみて、成果を振り返りましょう。具体的には、月当たりの目標については毎月決まったタイミングで、また1年後、3年後等の年単位の目標については、予定していた期間の半分・全部が経過したタイミングを目安に、当初の計画通りに人材育成を進めることができたか、個人に設定した目標や課題の解決が達成できたかについて、確認していきます。
なお日創研では、人材育成計画の振り返りと改善に際し、社員一人ひとりの強みや現時点での反省点、将来的なビジョン、達成すべき目標等をまとめたビジョンシートを使用しています。
自社の人事評価制度や、人材育成計画の振り返り・改善に不安があるという場合は、教育研修制度などと併せてビジョンシートを活用した1on1を導入することも検討してみましょう。
人材育成に活用可能なフレームワークは? 3つの具体例
フレームワークとは、枠組みや骨組みを意味する言葉であり、目標達成や物事を理解するための一定の基準、考え方の軸のようなものです。そして人材育成のためのフレームワークとは、人材の思考力や判断力、知識、技能、資格などをバランスよく成長させるための具体的な計画と行動を決めたり、現状や課題解決に必要な情報を整理する際の基軸になるものと言えます。
そこで以下からは、人材育成の現場で活用できる3つのフレームワークについて、大まかな用途も踏まえながら紹介していきます。自社で使えそうなものがないか、確認してみてください。
カッツモデル
人材育成で大切なこととして述べた「三位一体の経営」や「階層別の教育」の考え方のもととなっている理論です。リーダーシップを構成するスキルを、コンセプチュアルスキル・ヒューマンスキル・テクニカルスキルの3つに分け、役職や階層、それぞれの役割ごとに重視する割合を変えるという考え方のことで、主に人材育成計画の立案に役立ちます。
カークパトリックモデル
研修や教育による効果を評価する際に役立つフレームワークです。具体的には、以下4つの基準で教育機会の満足度、理解度、受講者の行動変化、研修による成果のレベル等を測定します。
- レベル1:reaction(反応)
- レベル2:learning(学習)
- レベル3:behavior(行動)
- レベル4:result(結果)
人材育成においては、特に計画を実施した後、成果の振り返りや改善の際に役立つでしょう。
SMARTの法則
主に、定めた目標の質を評価するために用いられるフレームワークです。人材育成の際には、計画段階で設定した目標に無理がないか、具体性があるか、また客観的に成果を評価したり、振り返りができるものになっているか等について、以下の5つの視点から確認します。
- Specific(具体性があるか)
- Measurable(数値として計量可能か)
- Achievable(現実的に達成可能か)
- Realistic(業務や目標との関連性はあるか)
- Time-bound(達成までの期限が設定されているか)
人材育成に役立つ!日創研で活用中のフレームワーク5つ
ここからは、人材育成に関する日創研のセミナーで実際に使用し、お客様にも活用をおすすめしている5つのレームワークについて、それぞれの特徴や概要と一緒に紹介していきます。
GRIT(グリット)
Guts(ガッツ)、Resilience(レジリエンス)、Initiative(イニシアチブ)、Tenacity(テナシティ)の4つの要素から成る個人の「やり抜く力」の向上に効果的なフレームワークです。
日創研では、個人が自身の強みに気づき、目の前の困難や課題を解決したり、目標を達成するための考え方や姿勢を身に付けるためのフレームワークの一つとして活用しています。
TMI理論(PM理論)
組織風土の偏りを是正し、健全なマネジメントを通した組織力強化のために使用するフレームワークの一つです。目標達成や課題解決のためのT機能、組織を維持・メンテナンスするためのM機能、私的な欲求からくるI機能の3つのバランスを調整し、向上させるのに役立ちます。
組織PDCA
個人が目標達成を目指す際にも使用される有名なフレームワークの一種です。日創研においては、組織としてPlan(計画)、Do(実行)、Check(差異・原因・要因分析)、Action(修正)のサイクルを回すことにより、現状の課題や解決策の発見、マネジメント機能不全の解消にも活用することをおすすめしています。
組織成立の三要素
組織が成立するための三要素である「共通の目的」「協働の自発性」「コミュニケーション」を軸に現状を分析することで、組織不全の是正や組織力の強化を目指すフレームワークです。
組織における3大マネジメント機能
組織を維持していくための3大マネジメント機能である「人」「仕事」「組織」の現状について整理し、マネジメント不全等の課題の洗い出しや、上司の指導力向上等の解決策の発見を目指す際に有効なフレームワークの一種です。
人材育成で大切なことは組織での取り組みと個人の気づき
組織全体として戦略的、かつ長期的に人材育成に注力し、社員一人ひとりが学びと成長を続けられる環境や人事制度を確立してこそ、企業は継続的に発展・成功することができるのです。
しかし、日々の業務に必要なビジネスマナーやコミュニケーションスキル、職能などを身に着けるだけでは、個人の仕事や組織への考え方・価値観をアップデートすることはできません。
組織への帰属意識(エンゲージメント)を高め、一人ひとりが自身の階層や役割に応じて高いパフォーマンスを上げられるようになるには、まず自身という人材について正しく認識する必要があると言えるでしょう。
日創研が提供する「SA自己成長コース」では、「自己への気づき(セルフ・アウェアネス)」をテーマに掲げて、自身が持つ能力や強み、向き合うべき課題、スキルや思考パターンなどについて再認識するとともに、自身の言動が周りに与える影響への気づきも促していきます。
人材育成を通して組織全体を良い方向へ変えていきたい、自身や管理職はもちろん、社員さんたちの今後の可能性を大きく広げていくきっかけを探しているという経営者様は、ぜひ日創研の「SA自己成長コース」のセミナー受講をご検討の上、お気軽にご相談ください。